青森市森林博物館から青森駅まで帰ってきた。歩いて約20分の道のりだ。
このシリーズの最初にも述べた通り、今日は大学の同期との旅行に合流する段取りとなっている。集合場所は函館だ。
青森からの交通手段としては、青函フェリーをなど色々と検討したが、結局は新幹線で行くことにした。そのほうが時間的なゆとりが作れるからだ。もし他の選択をしていたら、今朝のような寛ぎの時間は取れなかっただろう。
青森駅周辺で昼食を摂ってから向かうことにした。これが青森での最後の食事になる。
青森駅周辺には何か所か生鮮市場があり、鮮魚を中心に活発な商いがされている。そういうところにはだいたいちょっとした食堂があるものだ。今回はそれが狙いだ。
市場のひとつに着いた。少し探索してみると、想定通り、いくつかの食事処を見つけることができた。
ただ、ここまでの移動で思ったより時間を食ってしまったようで、じっくり店を吟味する余裕はなくなっていた。
僕は目についた店に入った。
他の店はかなり混雑していたのに対し、その店にはほとんど客がいない。少し不安を覚えた。だが、こういうときは勢いだ。
座席はカウンターだった。夜は居酒屋的な営業をしているのだろうか。そんな佇まいに感じられた。
メニューを見る。値段が安い。特色があるものではなく、お惣菜が中心だ。どちらかといえば観光客向けではなく、この市場で働く人が普段遣いする店なのだろう。
気になった定食を注文すると、それほど待つことなくして料理が出てきた。このあたりも「働く人のための食堂」という感じがする。
そして、出てきたものを見て驚いた。小高く盛られたご飯に味噌汁、手羽先と大根の煮物、そしてマグロの赤身のぶつ切りがどっさり。大変なボリュームだ。これでこの値段は破格だ。さすが市場に隣接しているだけある。
品数が多いというわけではなく、見た目の華やかさやオシャレ感といったものは無い。量の多さゆえに少々口飽きする面もあった。だが、それにしてもコストパフォーマンスは非常に高いものであったと言えよう。労働者の栄養補給にはもってこいという感じだ。
マグロの濃厚な血の風味が印象に残っている。
完食すると満腹になった。
料金を支払う段になって重大なことに気がついた。手持ちの現金がほとんどないのだ。
慌てて店の様子を確認した。どうもクレジットカードや電子マネーの類が使えそうな雰囲気ではない。急速に血の気が引いていくのを感じる。
もし足らなかったら…。事情を店の人に説明し、近くのコンビニなりのATMに駆け込んでお金をおろし、またこの店に戻り、代金を支払う。当然ながら迷惑を掛けたお詫びをせねばなるまい。その後ダッシュで駅に向かう。
それで予定していた電車の時刻に間に合うだろうか。
もし間に合わなければ、新幹線が後ろにずれ込む。結果として大学の同期に合流するのに遅れてしまうだろう。
大学の連中はそれで腹を立てるような輩ではない。だが、前入りして散々青森を楽しんでおいて遅刻するというのはなんともきまりが悪い…。
そんな想像が一瞬のうちに脳裏をよぎった。
結論としては、小銭をかき集めるとギリギリ足りることが分かった。僕は心底ホッとした。急速に冷や汗が引いていくが感じられた。
こんなことがあるので、旅先では多めの現金を持っておきたい。今回のことで強く思った。
予定していた電車には無事に乗ることができた。