#16. 『A列車で行こう』で帰ろう~奇妙な食べ合わせ-2308九州

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「A列車で行こう」で帰ろう

三角西港の観光を終え、歩いてJR三角線の三角駅まで来た。熊本駅からここまで来るのにはバス利用にしたので、帰りは鉄道を利用しようと計画していた。

乗りたい特急があった。それが『A列車で行こう』だ。音楽に詳しい方はピンと来る名前だろう。同名のジャズの名曲のもじりである。Aは「天草」のAから、また「Adult」のAから取っている。JR九州のサイト(https://www.jrkyushu.co.jp/trains/atrain/)によれば、”16世紀大航海時代のヨーロッパ文化と古き良き天草”、”大人の旅”がテーマでありコンセプトであるそうだ。

発車時刻までは余裕があったので、駅近くの売店でおやつなどを買っておく。良さげなものをいくつか見繕ってから、適当なタイミングで駅に向った。

ホームで列車の到着を待っていると、やがて発車時刻が迫ってきた。列車がホームに近づいてくる。目当ての『A列車で行こう』だ。その風貌は、ローカル線を走るのに良い意味で似つかわしくない、クラシカルで高級感のあるものだった。これからこの列車に乗り込むのだと思うと、列車に乗って移動するという、なんということのない平凡な行為が、一気に非日常めいてくるようだ。

列車が定位置に停車し、ドアが開いた。私の他にも乗り込む客は多い。全席指定のため、自分が座るべき座席は確保されているのだが、なんとなしに気がはやる。少しだけ急いで車内に進んだ。

私は期待に胸を高鳴らせていた。しかしそれと同時に、つとめて平静に振る舞おうともしていた。本心はワクワクして、はしゃぎたいような気持ちだったが、それを表に出してしまっては、この場にふさわしくないように思えたのだ。大人として。

スマートフォンの画面を確認しながら、自分の座席を探し出し、いったんは席に座る。座ったことで、少し落ちついて内装を観察することができるようになってきた。座席や壁面は格調高い木の風合いで。ステンドグラスを通じたカラフルで、しかし落ち着いた色調の光が、シックな空間に彩りを与えている。

車内を散策してみる。別の車両にバーカウンターが設置されているのを発見した。ここで飲み物などを買うことができるるようになっているのだ。前情報でなんとなくは知っていたが、それでも驚きがあった。目を引くメニューとしてハイボールがある。これも大人の空間の演出の一つだ。

せっかくなので何か注文したいと思ったが、私はアルコールに弱いのでハイボールは避けておいたほうが無難そうだ。サイダーを注文した。乗務員さん(バーテンダーさんといったほうが適切だろうか。)が対応してくれる。古い三角線の線路の性能は決して良いものではないため、ときおり車両がガタガタと強く揺れる。そんな中で注文の品を提供したり、釣り銭のやり取りをするのはかなり大変なのではないかと思った。しかしそんな素振りを出さずに凛として振る舞われていたのが印象に残っている。

座席に戻り、サイダーとさきほど三角港近くの売店で購入したお菓子をテーブルに並べた。

お菓子に貼られたラベルには『まくらぎ』と書かれている。これがこの食べ物の名称のようだ。ネットで調べたところ、線路の下に敷く枕木がその由来だそうだが、真偽のほどは不透明だ。

ピーナツの粉と黒砂糖を練り合わせたもののようで、素朴な風味と濃厚な(強烈な?)甘さが特徴だ。ナッツと砂糖の組み合わせはカロリーがすごそうなので、疲れたとき食べるとよいだろう。

『まくらぎ』を選んだ理由は、聞いたことがない食べ物で、興味を惹かれたからだ。その判断自体は旅を楽しむための良い選択だったと思うのだが、甘いサイダーとの相性はもう一つだった。ご想像の通り。

でも、このあたりを再び訪問したときには、また同じことをするのではなかろうか。