街にはその土地特有の「匂い」がある。
これまでそれなりの数の街を訪れてきて、僕なりに思うことだ。
もちろんここで言う「匂い」というのは比喩表現で、建物の佇まいや、道の張り巡らされ方、行く人々の風采といったもの総体から醸し出されるものだ。
だがここ枕崎では、比喩ではなく、直接的な意味での「匂い」に鼻をくすぐられた。
その正体は鰹節の香りだ。枕崎が鰹節の産地として有名なことは知っていた。しかし、駅に降り立った瞬間にその香ばしさを感じ取れるとは思っていなかったので驚いた。
せっかくここまで来たのだし、ぜひとも鰹節工場なりを見学してみたいとは思った。
しかし、たどり着くまでに思ったより時間が掛かってしまったせいもあり、その時間的な余裕は無かった。(もしかすると、なんとかやりようはあったのかもしれないが、この後桜島にも行きたかったのだ。)
なので、せめて昼ご飯に鰹を食べようと思った。
街の中心部を目指して歩き、店を見繕って入店した。
メニューが色々あって目移りしたが、鰹を使った料理がまんべんなく食べられそうな定食を注文した。
鰹の刺身が実に肉厚で美味かった。
美味かったのだが、やはり枕崎に求めるのはこれじゃなかったかな、と思わなくもなかった。
手間ひまかけて熟成された鰹節の味は、フレッシュなものとは全く異なるだろう。
その芳醇な旨味を舌の上に想像し、次に来られるのはいつだろうと少し遠くの未来を思った。
そんなわけで今回の滞在は少し物足りないものとなった。
その物足りなさは、街の「匂い」と共に記憶されている。