山頂での散策とスナップを終えたので、下山する。
以前の記事でも触れたことがあるが、行きと帰りではできる限り別のルートを取るようにしている。少しでもいろいろな景色に見てみたいし、いろいろな道を歩きたいのだ。
登りは尾根線を歩く眺望の良いルートを選んだ。そこで、下りは谷筋を行くルートにした。
広々とした眺望は得られないが、谷には谷ならではの良さがある。新たな景色との出会いを楽しみにしながら、僕は歩き始めた。
谷筋は陽の光が当たりにくく、昼間でも薄暗い。空気は湿り気を帯びている。土の色は深く、生育する植物の種類も尾根とは全く異なる。
谷川も流れていた。その姿は美しく、コロコロとせせらぐ音は、神秘的だ。
それらすべてを眼や耳や鼻や肌に感じながら、僕は歩いた。山歩きで一番好きな時間だ。
道中、時期を過ぎて、地面に落ちたヤブツバキの花を見つけた。落ちてなお艶やかな赤を放っている。その色は暗い色の土に映え、花弁の傷みと共に、退廃的な魅力を漂わせていた。