羊山公園を徒歩で下山し、再び秩父の街の中心部へ戻ってきた。
早起きして散歩するというのは良いものだ。ただそれだけで、何かを成し遂げたような気分になれる。時刻はまだ10時前だ。
僕はその勢いのまま、秩父天然温泉「祭の湯(まつりのゆ)」を目指した。西武秩父駅のすぐ隣にある、いわゆるスーパー銭湯だ。早朝に体を動かし、かいた汗をひとっ風呂を浴びて流すこと…これがこの日、自分のために用意した「ご褒美」だった。
「祭の湯」には開店時間前に着いたが、入口の前にはすでに多くの人が集まっていた。朝風呂で気持ちよく休日を過ごそうというのは、誰しもが思いつく魂胆のようだ。待つことしばし、「祭の湯」が開店した。待っていた人々が自動ドアに続々と吸い込まれていく様子が印象に残っている。
「祭の湯」の泉質については、(詳しい訳ではないが)特段述べておくべきほどのことはない。それよりも、早朝に気持ちの良いハイキングを終え、晴れた空の下、広々と湯に浸かっている、それもまだ午前中に…――という事実のほうがはるかに重要だった。旅先で、ということも必要なファクターの一つだ。見知らぬ土地で露天風呂に浸かってこそ、大げさに言えばカタルシスが生じる。仮にこれが自分の家の近所でのことだったら、ここまでのありがたみは感じなかっただろう。スーパー銭湯は僕にとって、旅先で輝くオアシスなのだ。
入浴を済ませた後、自動販売機を探して瓶入りの牛乳を購入した。お約束だ。正直なところ、牛乳は体質との相性がいまいちで、飲んだ後に少し腹が重たくなる感じがする。しかし湯上がりにはこれ以外考えられない。そして座敷の休み処でマンガを読む。これもまた、僕にとっては重要な、ある種の儀式となっている。
こうして寛ぎのひとときを過ごした後、レストランの開店時間を見計らって移動した。ちょうどよく腹も減ってきたところだった。一応秩父らしいものをということで、わらじかつ丼ともりそばのセットを注文した。正直驚くほど美味しい、というわけでもなく、言うなれば普段着の味だった。地域の特色が色濃く出ているというわけでもなかった。それならば昨日食べた「みそポテト」のほうがよほど雰囲気があったと思う。だが、だからといって不満な気持ちになることはない。むしろ、こういった自己主張の「尖りきれなさ」にこそ、埼玉県らしさを感じる…と言えなくもない。
さて、腹も満たされ、英気を養えたところで、いよいよ秩父を去り、次の目的地に向かう。