山行も終盤に入った。木々の影は薄れ、谷川は川幅をずいぶん増している。
その川の畔に、キブシの花が咲いているのを見つけた。ごく淡い黄緑色をした、控えめな印象の花だ。その香りはやはり控えめなものながら、自分が春の山中にいることを確かに実感させてくれる。
僕はその姿を写真に収めた。
そのときは上手く撮れたように思ったのだが、後でよく見返してみると、ピントをはずしていた。狙いをつけた真ん中の1房にはきちんと合焦しているが、その両側の房はぼんやりとしているのだ。
拡大してみると、ピントの合っている房は画面に対して奥向きに、ピントを外した房は手前向きに枝を伸ばしていることに気がついた。横一列に並んでいるように見えて、実際には奥行方向の距離が異なっていたのだ。
撮影時の条件は開放絞りだったため、奥に伸びる枝についた花にピントを合わせた結果、手前に伸びたものに関しては被写界深度から外れてしまったのだ。適度に絞っておけば、3条の房すべてを被写界深度に入れて撮影することができただろう。
良い教訓が得られた…と言いたいところだが、良い写真が撮れたと思っていただけに、正直、残念な気持ちのほうが大きかった。