山道を下りきり、いよいよ森を抜けようというところで、ふと美しい花が出迎えてくれた。淡い紫に黄の文様が艶やかで、形はアヤメに似ている。
調べてみると、これはシャガ(射干)というアヤメ科の植物であることが分かった。中国原産の帰化植物で、日本にはかなり古い時代にもたらされたらしい。名前の耳慣れない響きはそのためだろうか。
面白いのは、シャガは種を作ることができず、人の手を借りなければ分布を広めることができないということだ。つまり、シャガが見られる場所には、何かしらの人の営みがある、もしくはあったということが言えるのだ。
実際、能勢妙見山は里山として積極的に利用されてきた歴史を持つ。山中ではミツマタの群落を見ることができるが、これらは和紙の材料とするために人為的に植栽されたものであり、里山文化の痕跡の一つだ。
そして、眼の前に咲くシャガの姿もまた、ここが人の手と自然の影響が入り交じる里山の一部であることを物語る証左なのである。
この花を見つけた際、その艶やかな佇まいが、周辺の野趣に比べてどうも似つかわしくないように思えたのだが、その来歴を知り、実に納得できたのだった。