プラットホームでSLパレオエクスプレスを迎えた後、僕は初めての体験に心が高鳴るのを感じながら、乗車した。
車内は完全に満席で、SLの根強い人気を物語っている。堂々とした外観や、レトロな内装がこの人気の理由だろう。けれども、今回の乗車で僕が感じた魅力はそれだけではなかった。
まず心を惹かれたのは、「音」に対してだ。発車の汽笛が響いた瞬間、その迫力に僕は思わず身震いした。予想を超える音圧に、ほんの少し恐怖すら感じるほどであった。驚いたが、これもSLの醍醐味のひとつなのだ。
やがて、ゆっくりと動輪が回り始めた。車体の重厚な振動が、足元から肌の表面を通じて、ビリビリと伝わってくる。加速に伴って、振動のテンポが徐々に増していく。まるで自分自身がSLの巨大な機械の一部になったようで、気分の高まりを感じた。
意外にも「匂い」に対しても心惹かれるものがあった。SLといえば黒い煙をモクモクと上げて走る姿を思い浮かべると思う。小説や映像作品では、その煤煙に辟易とするシーンが描かれることが多い(芥川龍之介の『蜜柑』とか)。だから僕は、SLに乗ったら、ある程度は焦げ臭い匂いを我慢しなくてはならないのだろうと前もって覚悟していた。けれども実際には、予想とは少し異なっていた。
乗車中、確かに普段嗅ぐことのない匂いが車内に流れ込んできた。だが、その匂いは思っていたよりもずっと澄んだ印象で、独特だが、嫌なものではなかった。まるで消毒臭のような香りに感じられた。石炭の燃焼で生じたフェノール類の匂いなのかもしれない。これを心地よいと感じる人は少数派だろうが、少なくとも、その時の僕にとっては新鮮で、魅力的なものに思えた。
鉄道の楽しみ方には色々ある。乗るのが好きな人、撮るのが好きな人…。駅の発車メロディーやモーターの音まで楽しむ人もいるから、「音」を楽しむ人は一定数いるのだろう。一方で、「匂い」を楽しむ鉄道ファンはよりマイナーな存在かもしれない。自分なりの楽しみ方を発見できたことで、満足のいく乗車体験となった。