#12. あんちゃんと猫とゼリーフライ|前玉神社にて

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行田で3日目の朝を迎えた。埼玉旅行の最終日だ。朝食の後、前玉神社に向かった。ホテルからは歩いて約30分と、それなりに掛かるが、朝の散歩にちょうど良い。

前玉神社は埼玉古墳群の近くに位置し、その創建は古墳時代に遡るとされる古社だ。神社が現在のような姿形をしていなかった頃から、この土地の信仰の中心としての役を担ってきたのであろう。古代ロマンの地・行田を見て回る上で、外すことのできないスポットだ。

前玉神社・花手水とはにわ_2405埼玉
前玉神社の花手水。古墳にちなんで「はにわ」

参拝をした後、参道沿いの出店に立ち寄った。ポツンと1軒だけ出ていたのを不思議に思った。普段から営業しているのだろうか。あるいは昨日の「さきたま火まつり」の名残なのであろうか。

僕はそこでゼリーフライを注文した。行田のローカルな名物だ。店番のあんちゃんが「ゼリーまだだよね」といったようなことを、店の奥にいるオヤジさんに尋ねた。まだ油の準備ができていないので、10分くらい待ってくれ、とのことだった。少し早く来すぎたようだ。

境内にベンチがあったので、僕はそこに座って待つことにした。待っていると猫がやってきた。この神社に住み着いているらしく、人にも慣れていて我が物顔で寛いでいる。きれいな三毛で、鈴のついた首輪をしていた。この神社の看板猫のようだ。

猫を眺めたり写真を撮ったりしていたら、どれくらい時間が経ったか分からなくなってしまったので、適当にタイミングを見計らい、さきほどの出店に戻った。

前玉神社の看板猫_2405埼玉
前玉神社の看板猫

僕は再度ゼリーフライを注文した。相変わらずまだ早かったらしく、ゼニーフライを揚げている最中だった。その間、店番のあんちゃんと話をした。どこから来たのか、何を見たのかというような話だ。言葉には少し訛りが感じられた。

神戸から来て、秩父、長瀞を周り、そして行田まで来たと話すと、「埼玉が好きなんですか?」と聞かれた。それに対し「まあ、そんなところです」と歯切れ悪く返してしまった。あえて埼玉を観光する自分が、「物好き」に映るのではないかという気恥ずかしさがあったのだ。もしここで「埼玉、好きなんですよ」と言える素直さがあったなら、あるいは喜んでもらえたのかもしれない。あんちゃんのリアクションは「そうですか」というさっぱりしたもので、失望のような響きは含まれていないようだったから、僕は少し安心した。

オヤジさんは(もしかしたらあんちゃんの話だったかもしれない)、若い頃に仕事で西の方に行ったことがあるという話をしてくれた。僕は相槌を打ちながらそれを聞いた。旅行中、現地の人と話す機会はそれなりにあるのだが、毎度「もう少し気の利いた受け答えができればな」と思う。

ゼリーフライが揚がったようだ。僕は小銭を渡し、ゼリーフライを受け取った。揚げたてだ。ゼリーフライは、おからを潰したジャガイモなどと混ぜ、小判状にまとめて油で揚げた料理だ。ウスターソースにくぐらせて仕上げる。その形から銭フライと呼ばれ、次第に転訛してゼリーフライとなったようだ。

要するに衣のないコロッケみたいな食べものなのだが、これが予想を超えてうまかった。揚げたてだからか、ソースが秘伝だからなのか分からないが、ともかくうまかった。今回の旅行で食べた中で一番美味しかったかもしれない。

ゼリーフライをかじりながら、次に来たときには「埼玉、大好きです!」と言うことができるだろうかと、そんなことを考えていた。

前玉神社の出店_2405埼玉
前玉神社と出店