忍城を見た後、昼食をとり、十万石ふくさやでお土産(もちろん十万石まんじゅうだ)を買った。これにて行田の散策は終了だ。僕は秩父鉄道の行田駅に向かった。秩父方面へ向かう列車に乗り、桜沢駅で降りた。埼玉県立川の博物館、通称「かわはく」に行くためだ。
「かわはく」の最寄り駅は通常、東武東上線の鉢形駅が使われる。ただ、そこからでも徒歩15分程度かかり、それほど近いこともない。普通は車で行く場所なのだろう。
秩父鉄道から鉢形駅に行く場合、一度寄居駅まで行き、東武に乗り換えて引き返してくる必要がある。埼玉県内とは言え、都心を離れたこのあたりでは列車の本数もそう多くはなく、乗り換えも数分の待ち時間で、というわけにはいかない。
それならば、いっそ途中の桜沢駅で降りて、歩いて行ったらどうかと思ったのだ。30分少々は歩くことになるが、到着時刻は大差なく、途中の景色を見て回れるのでその分良いと思った。
桜沢駅を出るとすぐに寄居中学校がある。その脇を南下していくと、やがて畑と住宅が混在する地帯に入った。畑の土は黒々としていて、牛舎もあった。初夏の陽に熱されて立ち上った匂いが互いに入り混じり、特有の臭気となって周囲に漂っていた。魔夜峰央の問題作『翔んで埼玉』では、「埼玉県民は肥やしのにおいがする」としきりに記述されている。歩きながらそれを思い出し、「これが本場か」と思わず呟いてしまった。(本作は自虐的ギャグ漫画であり、内容を本気で受け取ったりはしていないです。もちろん。)
さらに南へ進むと荒川に出くわした。大きな流れが眼下に広がっている。対岸に渡るため、玉淀大橋を進んだ。その途中、僕は上流の方角をじっと見た。川を遡った先には、昨日訪れた長瀞、一昨日訪れた秩父がある。そしてそのさらに奥、荒川の源流がある甲武信ヶ岳がある。僕はそれを想像した。
橋を渡り終えた後、荒川の右岸に沿って東へ進んだ。この辺りでは河川敷がある程度広くが広く整備され、キャンプサイトとして活用されいてた。川風によって運ばれてきてたバーベキューの香りが鼻をくすぐった。焼ける炭と焼ける肉の香りが混じった、あの香気だ。行楽シーズンを感じた。
「かわはく」が見えてきた。