今回の旅は、埼玉県を流れる荒川をたどる旅でもあった。秩父(荒川の源流は奥秩父の甲武信ヶ岳にある)から始まり、長瀞で荒川の作った景観を見、荒川に沿って走る秩父鉄道に乗って行田を訪れ、最後に「埼玉県立川の博物館(かわはく)」までたどり着いた。
埼玉県は、県土に占める河川面積が全国で2番目に多い「川の国」だ(1位は徳島県)。象徴ともいえる荒川について知ることは、埼玉県の全体像を理解する上で、僕にとって欠くべからざることだった。「かわはく」は、“埼玉の母なる川-荒川-を中心とする河川や水と人々のくらしとのかかわり“(https://www.river-museum.jp/より引用)を展示テーマとする博物館で、今回の旅の締めくくりとしてふさわしい場所だ。
博物館に到着してまず目を引くのは、屋外にそびえる巨大な水車だ。直径は24.2mで、日本一の大きさを誇る(執筆時点)。遠くからでもその大きさは分かるのだが、至近に寄るとその迫力は圧巻だ。巨大な構造物が駆動している様は、畏怖に似た感情が湧き上がらせる。
次に興味を惹かれたのは、荒川沿いの地形を再現したジオラマ、「荒川大模型173」だ。荒川の源流である甲武信ヶ岳から東京湾へ注ぐ河口までを1000分の1の縮尺で再現した模型で、名称は荒川の長さが173kmであることにちなんでいる。鳥の視点から見る荒川の姿は壮観だ。秩父の街、長瀞の流れを見つけ、懐かしいような気分にもなった。
…まだ博物館の中にも入っていないのだが、これら2つの展示を見るのに随分と時間を掛けてしまった。すでに時間が足りなくなるのは確実となった。それでもこれらの展示には抗しがたい魅力があった。館内の観覧時間を多少犠牲にしてでも、見ておきたかった。
ようやく館内に足を踏み入れた。「かわはく」は特に子どもたちに人気があるようで、多くの家族連れが訪れていた。展示パネルの内容は大変興味深いものだったが、遊びたい盛りの子どもたちには少し退屈だったようだ。内容そっちのけではしゃぎまわる子どもも多く、博物館という場所柄に似つかわしくないにぎやかさを呈していた。
もし僕が博物館のスタッフだったとしたら、この活気を嬉しく思う一方で、大半の展示物を見過ごされてしまうことに、苛立ちと歯がゆさを感じてしまうかもしれない。実際のところはどうなのだろうか。おそらくは僕の想像するような苦労はとうに通り越していて、子どもたちに荒川の、ひいては学術的研究の面白さをどうやったら伝えられるかという点に腐心しているのではないかと想像する。
博物館を出た。日の長い時期ではあったが、陽光はすでに飴色がかっていた。