昨晩泊まった宿の居心地の良さに、この日の予定は完全に狂ってしまった。
開き直って、のんびりと青森駅周辺を散策することにする。
宿から歩くこと約15分。ひとまず青い海公園に来てみた。陸奥湾に面した憩いの場だ。
昨日はひどく天気が荒れていたが、今日はありがたいことによく晴れている。吹き抜ける風は程よく冷たく、歩いていて気持ちが良い。
公園のほど近くには青森観光物産館アスパムという施設がある。
そびえ立つ三角形の姿が遠目にも目を引く存在で、青森のランドマークのひとつだ。展望台もあるということで中に入ってみた。
展望台は地上51mで、周囲360度を見渡せるのがウリだ。昨日訪れた八甲田丸や、青森ベイブリッジもよく見える。
見晴らしの良いところでは、風景を眺めながら、知っている地名と照らし合わせるのが楽しいものだ。
このときも、「あそこに見えるのが下北半島とすると、その奥に霞んでいるのは北海道だろうか…」と考えていた。だが、地図と見比べなどするうち、どうも違うらしいことがと分かってきた。
下北半島だと思ったのは、そのずっと手前の夏泊半島で、北海道だと思ったのが下北半島だったのだ。
なんとも間抜けな勘違いをしていたことに、思わず自嘲の苦笑いを浮かべた。しかし同時に、下北半島のスケールがありありと感じられ、新鮮な驚きを覚えたことも事実だ。
北海道は、少し別な方角に見られた。津軽半島と下北半島のわずかな隙間の奥に、本来なら雄大である姿の、ほんの一端をちょこんとのぞかせていた。
聞くところによれば、北海道は天候に恵まれなければ見られないそうだ。このときは運が良かったようだ。
僕はアスパムから出て、再びぶらぶらと歩き始めた。
海を眺める観光客らの会話が風に乗って耳に入ってきた。
「あれは北海道かなあ」
声の方向を見やると、彼ら視線の先は案の定、下北半島だった。
ここを訪れた人々は皆、同じ勘違いをするようだ。