今回は『和音を聴く力をつけよう』シリーズの第1回目、イントロダクションです。
※(たわ)が所属する合唱グループのメンバー向けに行った講義資料を文字に起こしたものになります。
こんな人向けの講義シリーズです。
本講義シリーズ『和音を聴く力をつけよう』では、
- 「和音の種類が分からない」
- 「『よく聴いて!』と言われても、どうやって聴けば良いのか分からない」
- 「もっとハモれるようになりたい」
といった、和音についてもう少し分かるようになりたい人に向けてお話します。
合唱活動に取り組んでいると、練習のそれなりに多くの時間を和音のことに費やすことになります。
一方で「和音についてよく分からないまま日々の練習を過ごしてしまっている…」という方も少なくない、と言うか、かなり多いのではないかと思います。
また「和音とか音楽理論のことを勉強するぞ!」と意気込んで取り組んでみたものの、難しくて挫折してしまった人も中にはいると思います。よほどの興味と熱意がないと先に進んでいけないのがこの分野です。
音楽理論が難しいと言われる理由の一つには、普段触れている音楽と学んだ理論がリンクするまでに時間を要することがあるのではいかと考えています。体系的に学ぼうとすると陥りがち。
そこで本シリーズでは理論的なことはなるべく後回しにし、まずは聴いてみる・歌ってみることから始めます。実践を通して和音を学んでいこうという目論見です。
そこで本シリーズでは、理論的なことはなるべく省き、実践を通して和音のことが学べるようなシリーズにしていきたいと思っています。
和音が分かる人、耳が良いと言われる人はどんな感じで音を聴いているのか、その感覚が伝わればよいなと思います。
今回の講義(イントロダクション)の目標
今回はイントロダクションです。次の3点が目標です。
- 和音の聴き方を知る
- 和音を聴く耳の鍛え方を知る
- 実際にトレーニングをしてみる
合唱の練習をしていて、最も頻繁に受ける指示の一つが「もっとよく聴いて、聴き合って!」というものではないでしょうか。
ある程度経験を積んだ方なら「聴く」ことの重要性はよくご存知だと思います。
しかしながら、あらためて考えてみると一体「何を」「どうやって」聴いたらよいのか、また”どうすればもっと耳が良くなるのか” という部分は曖昧、あるいは謎のままになっているのではないでしょうか。
そこで今回は対象を和音に絞り、聴く際に注目するべきポイント・耳を鍛えるトレーニング方法をお伝えしたいと思います。
音楽というのは生ものですので、ここで解説することがすべてではありません。しかしながら何かしら具体的な指針があったほうが取り組みやすいというのもあると思いますので、ぜひ参考にされてみてください。
今回の内容をもとにトレーニングを続けていくと、音取りスピード ・ハモリのセンス・音楽の理解度アップに繋がるはずです。
今回取り扱う範囲
和音とは複数の異なる音を同時に鳴らしたときに生まれる音です。
したがって鳴っている音が2種類でも3種類でも和音と呼ぶことができるのですが、本シリーズでは次の2つに絞って扱います。
- 音が3つの和音…三和音
- 音が4つの和音…四和音
その理由ですが、1つ目は三和音・四和音は性格・印象がはっきりしており、聴き分けのトレーニングがしやすいことです。それに対して音が2種類の和音は性格がはっきりしにくく、聴き分け難易度が高くなります。逆に音が5つ以上になると響きが複雑になりすぎて、これまた聴き分けが難しくなります。
理由の2つ目は、曲中でよく使われるのがこれら三和音・四和音であるということです。これら2つをしっかり押さえることができれば、実際の曲の9割はカバーできると思います。
「和音を覚える」とは? 3つのポイント
和音の聴き方を勉強していく上では、ふんわりとでもよいので「和音を覚える」ことが必要となってきます。
しかし「和音を覚える」とはどういうことなのでしょうか。イメージが湧かない方も多いと思います。
そこで私個人的に必要だと思うポイントをまとめてみます。以下の通り。
“和音を覚える”とは次の3つを自分の中でそれぞれ結びつけること。
- 和音の名前 …「C7(シーセブンス)」などの呼び方
- 和音の印象 …聴いたときに受ける、感じる感覚 ←最重要
- 和音の構成音 …根音と音程(理論的な内容なのでイントロでは割愛)
「1. 和音の名前」は文字通り呼び方のことです。呼び方なんて実際の響きには関係なく、本質ではないように思えますが、知識を整理し理解を深める上ではなんとなくでも分かっていたほうが格段に便利です。
「2. 和音の印象」は3つのポイントの中でも最重要。トレーニングでも一番力を入れるべき部分になります。後ほど詳しく解説します。
「3. 和音の構成音」は、より詳細に和音を分析したり曲の中で位置づけを解釈したりするのに必要な知識となってきます。ですが、少し理論的な内容ということもあり今回は割愛させていただきます。
「和音を聴く」とは?
さきほどは和音を聴いたときの印象が大切、と説明しました。
では「和音を聴く」際にはどのような点に注目すればよいのでしょうか。これを知ることが今回の目標の一つでした。
以下のようにまとめてみます。
和音を聴いたときの印象を決めるのは次の3つの要素。
- 明るい⇔暗い …長調(メイジャー)、短調(マイナー)
- シンプル⇔複雑 …テンション(セブンスなど)の有無、種類
- 前後の繋がり …前後の和音、調との関係で印象は変わる
「和音を聴いて!」と言われたらこれらの3要素に着目してみよう。
感覚は人それぞれなので他にも言い方があるかもしれませんが、大まかな指針としてはこのようになります。
次のトレーニング編で、より詳しく説明を加えながら進めていきたいと思います。
「和音を聴く耳」のトレーニング
ここからはトレーニング実践編。まずはゴールとやり方を確認しておきます。
トレーニングのゴール
今回のトレーニングでは和音を覚えるために必要な3つのポイントのうち、「1. 和音の名前」⇔「2. 和音の印象」を結びつけることを目標にします。
前述のとおり「3. 和音の構成音」は理論的な内容に踏み込む必要があるため省略。
トレーニングのやり方
次の流れで行います。
- 和音を聴いたり歌ってみる
- 印象を言葉にする、またはメモする
- 名前や前後の和音など、違いを整理する
これまでの合唱体験においても、和音を聴いたり歌ったりしたときには何かしらの印象は感じ取ってきたと思います。
今回のトレーニングではその印象を頑張って言葉に置き換えてもらいます。こうすることで和音の印象が自分の中に定着し、また他の和音との比較ができるようになります。面倒でない人はメモに起こしてみるとより効果的です。
最初は言葉が出てこなくてとても大変だと思います。しかしここで脳みそに汗をかくことが和音を覚えて耳を鍛えること、ひいては音楽の表現力に繋がります。
「自分はボキャ貧だから…」と諦めずに言葉を紡いでみてください。それが耳を鍛える早道です。
明るい⇔暗い の聴き分け
最初のテーマは明るい和音と暗い和音の聴き分けです。次の3種類の和音を聴いたり歌ったりしてみましょう。
- 「ド」「ミ」「ソ」
- 「ド」「ミ♭」「ソ」
- 「ラ」「ド」「ミ」
「明るい⇔暗い」以外にも、思ったことは何でも言葉にしてみましょう。
その後は下の解説を読みながら名前の違い、印象の違いを整理してみてください。
余裕があれば3つのうち2つの和音を選び、連続して聴いてみてもまた印象が変わると思います。
あわせて、講義を実際に行ったときにメンバーから挙がったコメントや私自身の持っている印象も書き添えています。自分なりの印象を持った上で参考にしてください。
「ド」「ミ」「ソ」の和音
- シンプルで明るい響き
- 色で言ったら黄色っぽい
- 幼稚園のオルガンで聴いた
- 終わった感じがある
このように明るい響きを持った和音(コード)を長三和音、あるいはメイジャーコード(Major chord)と呼びます。メイジャーと言ったら明るい和音のことなんだな、と覚えてもらえればばっちりです。
「ド」「ミ」「ソ」を同時に鳴らしたこの和音では「ド」の音が和音の土台、根っことなっています。
根っこの音を根音(こんおん)と呼び、今回は根音が「ド(=C)」のメイジャーコードなので、「シーメイジャー」と名前をつけることができます。
さらに補足すると、普通はメイジャーを省略して単に「シー」と呼ぶことが多いです。コードの記号で書くと「C」となります。
※音の名前を表すCとコードの名前を表すCが同じなので混乱しないように気をつけてください。
→根音・第3音・第5音などについて(見分け方とか)はそのうち記事作成(予定)
「ド」「ミ♭」「ソ」の和音
- 暗い響き
- 「ド」「ミ」「ソ」に比べるとやや複雑
- 色で言ったら濃い緑~青、寒色
- 終わった感じが弱い
このように暗い響きを持った和音を短三和音、あるいはマイナーコード(minor chord)と呼びます。マイナーと言ったら暗い和音のこと、と覚えましょう。
根音は先ほどと同様「ド(=C)」の音。なので「シーマイナー」と名前をつけることができます。
メイジャーのときと違いマイナーを省略することはできません。コードの記号で書くと「Cm」となります。小文字のmがマイナーを表しています。
「終わった感じが弱い」と感じたメンバーもいました。前後の関係にもよるのでなんとも言えないところがありますが、長三和音と比べて周波数比が複雑になっていることが印象の違いに現れているのかもしれません。
「ラ」「ド」「ミ」の和音
- 暗い響き
- 夕暮れの赤~やや紫、色褪せた感じ
- セピア色みたいな感じ
こちらも暗い響きで、実際にマイナーコードではありますが、「Cm」(「ド」「ミ♭」「ソ」)と比べて赤っぽい色合い、または色褪せた印象を持った人が多かったようです。
少し専門用語を使えば、(「C」を基準としたときの)同主短調と平行短調の違いが出ているのだと思います。しかしながら、たとえそのあたりの知識がなくても印象としては出てくるんだなと大変興味深く受け取りました。
今回の根音は「ラ(=A)」の音。Aが根音のマイナーコードなので「Am」(エーマイナー)と呼ぶことができます。
>(予定)同主短調・平行短調について
シンプル⇔複雑 の聴き分け(明るい和音ベース)
続いてのテーマはシンプルな和音と複雑な和音の聴き分けです。
次の3種類の和音を聴いたり歌ったりしてみましょう。
- 「ド」「ミ」「ソ」(=「C」の和音)
- 「ド」「ミ」「ソ」「シ♭」
- 「ド」「ミ」「ソ」「シ♮」
「ド」「ミ」「ソ」の和音は先ほど聴いてもらった「C」の和音です。この三和音をもとに、新たに4つ目の音を付け加えたのがここで聴いてもらう和音。音が4つあるので四和音となります。
音が増えているため響きはより複雑になることが予想されますが、どのように変化するのか感じ取ってみましょう。
付け加える音によっても印象はガラリと変わります。しっかり言葉にしてみることが大切です。
先ほどと同様、講義を実際に行ったときにメンバーから挙がったコメントや私自身の持っている印象も書き添えています。
「ド」「ミ」「ソ」「シ♭」の和音
- 「C」よりも複雑
- 次に続く感じ
- ちょっと暗い感じ、ブルーな感じ
このように基本となる明るい和音に、根音から数えて短7度の音程となる音を付け加えた和音をセブンスコードと呼びます。
音程、短7度という言葉についてはここでは詳しく解説しませんが、簡単に言えば音と音どうしの離れ具合を表す言葉です。
今回の「ド」「ミ」「ソ」「シ♭」は、基本である和音「C」に、その根音である「ド」と短7度の関係にある「シ♭」を付け足した和音です。名前は「C7」(シーセブンス)になります。ちょっと(だいぶ?)ややこしいですが、和音の構成音や音程について学んだ後なら分かるようになるはずです。
ついでに少し先取りしておくと、短7度を付け加えた場合は「○7」(~セブンス)、長7度を付け加えた場合は「○M7」(~メイジャーセブンス)と呼ばれます。
短とマイナー、長とメイジャーが対応することを考えると、今回の和音は「シーメイジャー・マイナーセブンス」となりそうですね。しかし短7度の場合「マイナー」を省略し、前述のとおり前半のメイジャーも省くので「シーセブンス」となります。ややこしいですが、次に聴いてもらう和音も合わせて見てもらうと整理できると思います。
「C7」はベースとしている和音は明るい響き。しかしながら、短7度の音が加わることで少し影のある感じになりました。
また、「次に続く感じ」という感想があったのも的を射ています。実際「C7」はヘ調のドミナントとして用いられる和音です。音程を詳しく見てみると、「ミ」「シ♭」の増音程が不安定さを生み、次に進みたいエネルギーの源となっています。
「ド」「ミ」「ソ」「シ♮」の和音
- 緊張感、当たりが強い
- シャープな感じ、都会的な響き
先ほどの「C7」との違いは付け加えた音が「シ♭」ではなく「シ♮」になっていることです。
根音である「ド」と「シ♮」の音程関係は長7度。明るい和音をベースに長7度を付け加えた和音をメイジャーセブンスコードと呼びます。
今回の和音は根音が「ド」なので「CM7」(シー・メイジャーセブンス)となります。ちなみに同じ和音を「CΔ7」と書き表すこともあります。
ここでの「メイジャー」は後ろの「セブンス」に掛かっていることに注意してください(分かりやすいよう中黒・で区切っています)。このメイジャーは省略できません。短7度のセブンスと区別できなくなってしまうからです。
名前をつけるとき、基本となる和音の長短に関してはメイジャーを省略、第7音に関してはマイナーを省略することを覚えておきましょう。
「CM7」では、もとの和音「C」は明るい響き。そこに加わった長7度の音はオクターブ下げると根音と半音でぶつかっており、これが強い緊張感の理由となっています。
一方で、その他の構成音とはよく協和する音程となっているため、メイジャーセブンスは曲の終わりに使える和音でもあります。
シンプル⇔複雑 の聴き分け(暗い和音ベース)
引き続きシンプルな和音と複雑な和音の聴き分けです。
次の3種類の和音を聴いたり歌ったりしてみましょう。
- 「ド」「ミ♭」「ソ」(=「Cm」の和音)
- 「ド」「ミ♭」「ソ」「シ♭」
- 「ド」「ミ♭」「ソ」「シ♮」
今回は「ド」「ミ♭」「ソ」という暗い和音をベースにし、2種類の音を付け加えて和音を作ります。
すでにお気づきかもしれませんが、セブンス系の和音は[ベースとなる和音2種類]×[付け加える音2種類]=[合計4種類]の和音を作ることができます。
ベースが明るい和音だったときと比べて、どのように変化するのか感じ取ってみましょう。
つけ加える音によっても印象はガラリと変わります。しっかり言葉にしてみましょう。
これまでと同様、講義を実際に行ったときにメンバーから挙がったコメントや私自身の持っている印象も書き添えています。
「ド」「ミ♭」「ソ」「シ♭」の和音
- 暗く、濁った感じ
- ダークでかっこ良い
このように暗い和音をもとに、根音から数えて短7度の音程となる音を付け加えたのが「マイナー・セブンスコード」です。
今回の「ド」「ミ♭」「ソ」「シ♭」は、「Cm」をもとに、根音の「ド」と短7度の関係にある「シ♭」をつけ足した和音で、「Cm7」(シーマイナー・セブンス)という名前になります。
ここでの「マイナー」は「C」に掛かっており、もとが暗い和音であることを表します。後半の「セブンス」はこれだけで短7度を表します。
基本となる「Cm」は暗い響きで、さらにブルーな印象のある短7度が加わりますが、複雑さが出てくる分「真っ暗!」という感じはむしろ弱まります。「ミ♭」「ソ」「シ♭」だけを取り出すとメイジャーコードとなることも暗さを和らげている理由かと思います。
また「C7」で生じた増音程が解消されているため、比較的安定感のあるコードとなっています。
「ド」「ミ♭」「ソ」「シ♮」の和音
- 緊張感、違和感が非常に強い
- 非常事態感
先ほどの「Cm7」との違いはつけ加えた音が「シ♭」ではなく「シ♮」になっていること。根音との関係は長7度となっています。
マイナーコードに長7度をつけ加えた和音をマイナー・メイジャーセブンスコードと呼びます。
今回の和音は根音が「ド」なので「CmM7」(シーマイナー・メイジャーセブンス)となります。記号は「CmΔ7」となることもあります。
前半の「マイナー」は暗い和音がもとであることを表し、後半の「メイジャー」はつけ加えた音が長音程であることを表します。
ここでの「マイナー」「メイジャー」はどちらも省略できません。
もとにした和音は暗いながらも安定した響きです。しかし長7度の音を加えることで強烈な違和感、非常事態感のある印象に変わります。
長7度が半音的な当たりのきつい音程であるのに加え、「ミ♭」「シ♮」が増音程を作ることも理由の一つかと思います。
セブンス系コードの呼び方まとめ
ここで一旦セブンス系コードまとめておきます。
ベースとなる和音と、つけ加える音の組み合わせで次の4種類を作ることができました。
長7度を加える | 短7度を加える | |
メイジャーコード | 「○M7」(~メイジャーセブンス) | 「○7」(~セブンス) |
マイナーコード | 「○mM7」(~マイナー・メイジャーセブンス) | 「○m7」(~マイナー・セブンス) |
呼び方が整理できたら、再度それぞれの和音の響き・印象を確かめてみてください。また新たな発見があるかもしれません。
繋がり の聴き分け(和音の機能)
最後のテーマは和音の繋がりです。
和音は前後の繋がりによっても印象が変わってきます。それを体感してみましょう。
まずは次の3種類の和音進行を聴いたり歌ったりしてみましょう。
- C→F→G→C
- F→B♭→F/C→C
- G→C→D→C
ポイントはアンダーラインを引いた「C」の和音。これは「ド」「ミ」「ソ」の和音でした。
どの進行も4つ目の和音は「C」で同じですが、どのような違いが出てくるのかよく感じ取ってみましょう。
C→F→G→C
- 終わった感
- 安定感
4つの進行の中で最も「終わった感」があるのがこちらではないでしょうか。
非常に安心感・安定感があり、まさに王道の進行です。一方で少々ありきたりに感じられるかもしれません。
詳細に解説することはしませんが、この進行において最後の「C」はトニックと呼ばれる機能を担っています。(”機能”と難しい言い方をしていますが、”役割”や”はたらき”と読み替えてもらってもOKです。)
機能は和音の構成音がどうであるかではなく、前後の繋がりがどうなっているかという音楽の文脈で決まります。
用語について整理しておくと、和音の構成音がどうなっているかに着目した呼び方がコードネーム(和音の名前)で、機能に着目した呼び方がトニックや、この後出てくるドミナント、サブドミナントです。
トニックはまさに曲の始まりと終わりを作る機能を持っています。
F→B♭→F/C→C
- そこで終わるの?
- 次に進まないんかい!
- ジェットコースターで言えば、一番高いところ、降りる前に寸止め
分数で表したコードが出てきていますが、ここでは無視してOK。注目して欲しいのは最後の「C」です。
和音自体は1つ目に聴いてもらった進行の「C」と同じですが、さっきとは印象が全く異なるのではないでしょうか。
メンバーからのコメントを見ると、表現の違いはあれど「途中感」の強さが見て取れます。この「途中の感じ」を生み出す機能にはドミナントという名前がついています。
ドミナントの「途中」は一体どこに向かっている「途中」なのでしょうか。その答えが1つ前に解説したトニックです。
今回の進行はヘ長調のものですが、この文脈においてトニックとなるのがFのコード。試しに「F→B♭→F/C→C→F」と最後に「F」を続けてみてください。しっくりとまとまった感じになると思います。
この点でジェットコースターの比喩はなかなか言い得て妙。「ドミナントで高まる」→「トニックで落ち着く」という音楽の力学をよく捉えていると思います。
G→C→D→C
- フェイント感
- いったん軟着陸する感じ
- ジェットコースターで言えば、これから上がるよ感
最後の進行を聴いてみましょう。「C」は常に「ド」「ミ」「ソ」の和音です。しかしながら先ほどとはまた印象が違っていると思います。
同じ和音でも前後の関係で印象が変わります。繰り返しになりますが、ここが重要な点です。
1つ目に聴いてもらった「C→F→G→C」では、どんどんテンションが高まっていった後、最後の「C」でストンと1番低いところに落ち着いた感じがありました。
それに対して今回の進行では、高まった後に落ち着くところは似ていますが、その落ち着き方が中途半端な感じがするのではないでしょうか。
「G→C→D→C」のうち「G→C」の部分にも注目してみると、一気に最高潮に達するのではなくこれから徐々に高まっていくような印象があります。「ジェットコースターで言えば、これから上がるよ感」というコメントそれを非常に上手く表現していますね。
このように音楽が盛り上がっていくのを助けたり、和音の進行に多様性をもたせたりと割りかしいろいろな機能を果たしすのがサブドミナントです。トニック、ドミナントのサポート役を捉えても良いでしょう。
実際、トニックとドミナントだけで作られた曲は、単純すぎて無骨な印象になってしまいます。しかしそこにサブドミナントが入ることで、柔らかさや華やかさ、叙情性など様々な表情が生まれます。
繋がり の聴き分け(長調⇔短調)
最終テーマである繋がりの聴き分けを続けます。少し角度を変えて比較してみましょう。次の2つの進行です。
- F→B♭→C→F
- Fm→B♭m→C→Fm
今回の注目ポイントは3つ目の「C」の和音。それぞれの印象を言葉にしてみましょう。
F→B♭→C→F
- 明るい、予想通り
- ちゃんと解決した感じ
この進行だけを聴くと特段目新しいところも無いかもしれませんが、ここまでの復習も兼ねて解説したいと思います。
「F」が始まりの和音。そこから「B♭→C」と少しずつ盛り上がっていく印象を受けます。
今回の場合、「B♭」「C」はそれぞれサブドミナント、ドミナントの機能を持っています。「C」がドミナントになることは、「F→B♭→C」まで進めて止まったときの中途半端さから感じ取ることができますね。
最後に「F」に解決。まさにここで完結した感じがあり、「F」がトニックであることが分かると思います。
つまり「C→F」の進行は「ドミナント→トニック」の安定した王道の進行となっているわけです。
発展的な内容として補足しておきますと、「C→F」では根音が完全4度上行、あるいは完全5度下行しています。
このような動きをするコード進行をドミナントモーションと呼びます。余裕のある人は頭の片隅に置いておきましょう。(覚えておかなくてもOKです。)
Fm→B♭m→C→Fm
- 暗い感じ
- 解決感は強い
続いてこちらの進行を聴いてみましょう。3つ目の「C」は「ド」「ミ」「ソ」の和音で明るい和音です。
しかしながらこの進行における「C」は暗い印象を感じる人が多かったです。くどいようですが、和音は前後の繋がりによって印象が変わるのです。その良い例だと思います。
少し詳しく見ていきましょう。今回の進行は「Fm」から始まり、そこから「B♭m→C」と少しずつ高まっていき、ラストの「Fm」で解決します。
これを先ほど聴いてもらった「F→B♭→C→F」と比較すると、次の2点が浮かび上がってきます。
1点目は和音の機能について。全体的な”明るい⇔暗い”の違いはあるものの、「始まる→少しずつ盛り上がる→解決する」という音楽のストーリーは全く同じであることが分かります。実際にそれぞれの和音を機能で表すと「トニック→サブドミナント→ドミナント→トニック」となり、先ほどと同じです。すなわちこれは、和音の種類は異なっても前後の繋がりによっては同じ機能を持ち得るということです。特に「C→Fm」は先ほど触れたドミナントモーションです。
2点目は和音の根音について。コードネームの記号のうち、大文字のアルファベットのところに注目してみてください。「Fm」ならばFです。2つの進行ではこの根音の動きは全く同じでF→B♭→C→Fです。ということはコード進行全体の”明るい⇔暗い”の印象の違いを生み出しているのは、それぞれの和音の”明るい⇔暗い”ということになります。「F」なのか「Fm」なのか、小文字のm(マイナー)の有無が効いているということです。
この2点目はある意味当たり前のことに思えます。個々の和音が暗ければ進行全体も暗い印象となる、そのことに驚きは無いでしょう。ですがここで忘れてはいけないのが今回の注目和音である「C」の存在。mはついておらず明るい和音です。これはどう考えたらよいでしょうか。
実はこの「C」がもともとは明るい和音であるがゆえに進行全体の暗い印象をよりシャープにし、同時に本来明るいはずの「C」が暗い印象へと正反対の性質を持つようになったのです。
その証拠に次の進行を聴いてみてください。
- Fm→B♭m→Cm→Fm
明るい「C」の和音を暗い「Cm」に置き換えました。暗い和音が増えたのだから直感的には全体の印象もより暗くなると予想できそうです。
しかし実際にはむしろ暗さの印象がぼけて彩度が落ち、マイルドで素朴な印象に変わったのではないでしょうか。「Cm」だけに注目しても同様に傾向で、個人的にははっきりとした性格の暗さは無くなり、濃く鮮やかな青や紫と言うよりはぼんやりと薄暗いグレーや木材の色のような印象です。(もちろん感じ方には個人差があります。)
詳しく触れておくと、これらの印象の違いは導音の有無から生まれるものです。
- 「Fm→B♭m→C→Fm」…導音あり
- 「Fm→B♭m→Cm→Fm」…導音なし
導音とは調の主音から半音下がった音。今回はヘ短調なので、「ファ」の半音下である「ミ♮」が導音です。
「C→Fm」という進行(ドミナントモーション)において、「ミ♮→ファ」という「導音→主音」の半音の動きが、和音のスムーズな接続と主和音へ進んだときの解決感を増幅させ、トニックである「Fm」の暗い印象をより明確にしています。
「Cm→Fm」の場合は同様の箇所が「ミ♭→ファ」という全音階的な動きとなり、そのため確固とした接続にはならず「Fm」の色彩も少々ぼやけます。ぼやけると言うと良くないことのようですが、これはこれで素朴な感じで、民謡的あるいはオリエンタルな表情を持つ良さがあります。
ちょっと話が難しくなりすぎましたので話を元に戻しておきます。ここで知っておいてほしいのは同じ和音でも前後の繋がりによっては「明るい⇔暗い」の印象も変わりうるということです。同じことを繰り返し述べていますが、どう変わるのかを自分の感覚としてストックしておくのが大切な部分ですので、ぜひ繰り返し聴いて味わってみてください。
>(予定)自然短音階・和声的短音階・旋律的短音階・教会旋法とは
まとめ -和音を聴く力をつけるために
「和音を覚える」とは?
和音を覚えるには次の3つを結びつけることが必要でした。
- 名前
- 印象
- 構成音
「和音を聴く」とは?
正解があるわけではありませんが、和音に詳しくなるためには次の3点を意識するところから始めましょう。
- 明るい⇔暗い
- シンプル⇔複雑
- 前後の繋がり
「和音を聴く耳」のトレーニング
耳を鍛えるには和音の印象を自分なりの言葉で表現して記憶するのが耳を鍛える早道です。
和音は構成音や前後の繋がりによってガラリと印象が変わります。その印象を自分の表現で、自分の中にストックしておくと耳の良さ、ひいては音楽のセンスに繋がります。
印象を言語化するのは大変ですが、折に触れて続けてみてください。
みなさまの上達を願っております。
(おわり)